藤原孝章研究室

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2005.06.17初稿
同志社女子大学 現代社会学部 現代こども学科
藤原孝章研究室の紹介

私の国際理解教育論 理論的なアプローチ

 以下は、私の研究分野である国際理解教育について、講演記録などをもとに述べたものです。より詳しくは、「総合的な学習のテーマをどう設定するか(3)国際理解(4)外国語会話学習」(東山明・今谷順重編『総合的な学習ヒット教材集(1)基本と展開編』明治図書、2001年、31-36頁)、「論説 これからの国際理解教育」(文部科学省『中等教育資料』大日本図書、平成14年3月号、2002年、14-19頁)、「国際理解教育のカリキュラム開発 教師のカリキュラム・デザイン力と関連して」(日本国際理解教育学会『国際理解教育』第11号、2005年、172-191頁)や本文中で紹介した論考を参照してください。

1.はじめに 現行学習指導要領と国際理解

 国際理解教育が必要とされる社会の変化や時代背景(日本の国際化やグローバリゼーションの進展による、モノ、カネ、人、情報の国境を越えた広がり、深まりとそれによって生じてきた人権、平和、貧困、環境など地球的な課題、多文化共生などの地域の課題についてはすでに多くの場所でふれているのでここでは省略します(溝上泰・大津和子編『国際理解重要用語300の基礎知識』明治図書、2000年、米田伸次・大津和子・田渕五十生・藤原孝章・田中義信『テキスト国際理解』国土社、1997年など参照)。
 この論考では、国際理解教育の内容と授業実践にかかわる分野について見ていこうと思います。
 さて、国際理解教育が学習指導要領に広く認められたのは、今回の改訂による文部科学省の現行学習指導要領(1998年告示、高校は99年告示)がはじめてだったのです。「総合的な学習の時間」の例示内容の1つとして「国際理解」が取り上げられ、社会系教科や外国語科の教科目標の一部としても国際理解が盛り込まれています。そのような意味で、国際理解とは何かを学校教員のあいだに問題意識として広めていった意義は大きいといえます。
 それらの基本的な特徴は次の5点にまとめることができます。

 1.異文化理解、異文化との交流・共生
 2.我が国の歴史・文化・伝統への理解と認識
 3.アジア諸国へのまなざし
 4.基礎的・実践的コミュニケーション能力を育成する外国語教育
 5.小学校における外国語、外国文化との触れ合いなどをすすめる。

2.ナショナル・カリキュラムにおける国際化教育

 私は、これらの特徴の背景にある国際理解の考え方は、次の4点に要約できるのではないかと思います。
 1.国民(日本人)形成というナショナリズム
 2.自国文化と異文化という二分法的対置を前提にした理解と交流
 3.国際社会の中の日本の役割・貢献を意識した国益中心の考え方
 4.英語コミュニケーションの重視に見られる実利主義
 グローバリゼーションの時代にあって、モノやカネ、人や情報がたやすく国境をこえ、スタンダードがいよいよもって一元化されていきます。そこでは、ナショナルなアイデンティティや国際競争に打ち勝つ学力が必要だとされたのでしょう。それは、世界の中の日本や英語コミュニケーション力という言葉に如実に示されています。私はこれをナショナル・カリキュラムにおける国際化教育と呼ぶことにしています。

3.国際化教育の課題

 しかし、この国際化教育にいくつかの課題があることがわかります。
 1.形成するのは、国民(日本人)だけでよいでしょうか?
 日本に住む外国人の視点が必要ではないのでしょうか。さらにいえば、「国家の形成者」(国民)だけではなく、「社会の形成者」(市民)という視点も必要なのではないでしょうか。
 2.文化は国によって代表されるのでしょうか?ナショナルな文化は実体として存在するのでしょうか?
 文化は固定的・実体的なものではないはずです。どの地域の歴史を見ても、文化は変容し、創成されています。また、文化は対立し、共存・共生もします。さらにいえば、文化は対等なものでもありません。権力作用によって、支配する多数者(マジョリティ)の文化と支配され、抑圧される少数者(マジョリティ)の文化が形成されることがあります。中心と周辺(周縁)の形成といってもいいでしょう。
 3.国益のほかに、地球益や人類益は考えなくていいのでしょうか?
 「宇宙船地球号」という言い方によく示されているように、日本やアメリカ、中国など各国の「国民益・国益」の他に、「人類益・地球益」といった共通利益を考えることが必要です。このことは、京都議定書などに示された地球環境問題の解決への取り組み、2005年になって国連が提唱している「持続可能な開発のための教育10年」や、国連ミレニアム開発目標(MDGs、2000年)などをみても明らかです。
 4.英語学習を無批判に行なっていいのでしょうか?
 「英語が話せると国際人」、「英語を学べば国際理解ができる」といった風潮が世の中にはありますが、果たしてそれでいいのでしょうか。たしかに、英語は、現在、ビジネスをはじめとして、コミュニケーションの道具や手段として不可欠な言語であることは否定できません。しかし、国際理解教育の課題として考えるならば、英語一元化の中で消滅していく世界の少数言語や教室の中の英語以外の言語を母語とする子どもたちの存在など、英会話を無批判に取りあげるなかで見えてこない現実があることにも注意すべきではないでしょうか。社会的文脈のなかで言語をとらえていくという視点を失ってはならないのです。

4.「総合的な学習の時間」や教科における国際理解学習の課題

 1.「総合」との関連でいえば、国際理解はたんなる体験でいいのでしょうか?
 「総合的な学習の時間」で国際理解の活動を行なう場合、地域の留学生などの外国人をゲストに招き、その出身国について食べ物や民族衣装、民族音楽などを紹介してもらって終わりという授業が見られました。象徴的に言えば、「餃子」を作って終わりの国際理解です。
 たしかに、3Fといって、食べ物(Food)、衣装(Fashion)、お祭り(Festival)という民族や人びとの文化的背景にかかわる事象は、文化的多様性を示し、異文化の理解を進めるによい教材ですが、文化が国レベルでの紹介(多民族国家の場合一つの文化をもって国の文化を代表できない)や、体験そのもので終わる場合、学びが深まり、広がっていく契機は少ないといえるでしょう。
 2.教科学習との関連でいえば、国際理解の中味やねらい・目標はあるのでしょうか。教科学習で国際理解が扱えるのでしょうか。
 国際理解を単なる体験的活動ととらえる場合、学習の中味がみえてきません。しかし、国際理解が、いみじくも「総合」の中で取り上げられているのは、それが教科横断的で統合的な内容を持っているからにほかなりません。社会系教科や国語科、家庭科や芸術系教科、英語科などでは、教科内容の周辺に位置していた国際理解の学習内容が、課題やテーマを設けて、学習の中心的な内容として問題を追究し、解決を探っていくことは、教科学習ではなしえない新しい学びなのです。
 もちろん、教科学習でも、国際理解に関する内容は、取り上げられていますから、そこでも学ぶことは可能です。私は、社会科教育を専門領域にしていますが、社会科教育と国際理解については、次の論考を参考にしてください。

 ・森分孝治編『社会科教育学研究?方法論的アプローチ入門』明治図書、1999年。
 ・星村平和監修・原田智仁編『社会科教育へのアプローチ?社会科教育法?』現代教育社、2002年。
 ・「中学社会(公民的分野)における総合的単元の開発?国際空港を素材とする学習単元の試み?」社会系教科教育学会『社会系教科教育研究』12号、2000年、9-16頁。
 ・「地球的課題を学習する小学校社会科の授業構成?J.Rutterの『難民(小学校版)』を事例として?」全国社会科教育学会『社会科研究』2000年。第53号、1-10頁。

5.グローバル時代の国際理解教育(1)知的な探究者と地球市民を育てる教育

 国際理解の学習には、教科横断的な内容があり、学習目標やねらいがあります。それは、以下のような、体験、知識・理解、技能、態度の4つになります。通常、教科の学習では、体験は知識・理解、技能、態度の手段として位置づけられますが、国際理解教育では、あえて、交流や参加、行動を通した気づきや発見、共感をへて、知識・技能・態度の目標へといたる学習のプロセスを重視し、体験も目標の一つに加えました。
 体験目標については、日本国際理解教育学会で行なっている科研費共同研究「グローバル時代に対応した国際理解教育のカリキュラム開発に関する理論的・実践的研究」(2003?2005年)において議論となったものです。

 1.体験目標
  ・交流、参加、行動→気づき・発見・納得・実感・共感→知識・技能・態度の目標へ
 2.知識・理解目標
  ・文化的多様性 ・相互依存 ・安全・平和・共生
 3.技能(思考・判断・表現)目標
  ・コミュニケーション能力 ・メデイア・リテラシー ・問題解決能力
 4.態度(関心・意欲)目標
  ・人間としての尊厳 ・寛容・共感 ・参加・協力

 知識・理解目標については、恣意的な目標設定ではなく、現在の文化のあり方、グローバリゼーションに対する認識、地球的な課題へのアプローチが、国際理解にとって最低限求められる知識であると考えるからです。同様に、技能や態度にしても、もっと多くの、あるいは、細分化した技能や態度が考えられますが、学校内外で行われる国際理解教育の最大公約数的なものに絞っています。
 私の国際理解教育を「グローバル時代の国際理解教育-知的な探究者と地球市民を育てる教育」と仮にするならば、「探究者」という言葉には、体験にとどまらない、追究や吟味を通した、教科横断的で総合的な知識・理解が、「地球市民」という言葉には、そのような知識・理解のうえに立った技能や実践的な態度の育成が込められています。

6.グローバル時代の国際理解教育の学習領域

 次に、国際理解教育の学習領域を見ていきます。大きくわけて、文化、相互依存、地球的課題、未来への選択の4つにわかれます。このようにわけると、文化的理解、国際関係、国際問題、未来展望といった知識的な部分がイメージされますが、それよりもむしろ、意識化や気づき、変化や形成、交流といった実践的なものを意識しています。

 1.文化学習
  文化の多様性・普遍性・対立性・変容性
 2.相互依存・グローバリセーションの学習
  グローバルとローカルの関係、社会のあり方
 3.地球的課題の学習
  課題の探究、問題解決・社会参加力の育成
 4.未来への選択の学習
  グローバル時代の歴史意識、持続可能な地域やくらしの意識、社会形成力の育成

 1.文化学習
 文化学習では、文化の多様性や普遍性の側面と、文化が対立したり、変容していくという側面をとりあげます。小学校段階では、衣食住や3F、音楽・美術など多様な文化体験を通して、「人間の文化」としての普遍性や「地球家族」意識(共通性)の函養をはかっていくことが大切だと思います。「違いとともに同じ」という実感を持つことが重要だと考えます。
 中・高校段階では、文化は多様であるけれども、人種差別や民族対立の事例などから、文化には対立や否定の要素があること、同化を強いるような文化もあり、それに対して、相違への権利や抵抗のシンボルとしての文化もあることを気づいていくようにしたいです。さらに、「一国家一民族一文化」のような文化を固定的、実体的にとらえる見方から、多民族社会、多文化社会における文化変容などの例から、文化を生成し、変容するものとしてとらえていくことも、この段階では重要なことです。
 これらの複合的な見方が、移民や「国際結婚」による子どもたちの文化的アイデンティティを理解していくことにもつながっていくと思います。

 2.相互依存・グローバリセーションの学習
 相互依存・グローバリセーションの学習では、国境を越え、世界市場を求めるグローバル・エコノミーが成立し、人、モノ、カネ、情報のグローバル・ネットワークが形成され、互いに依存しあっているなかで、世界や地球と自分たちの暮らす地域との関係、国家や社会のあり方を考えていきます。ここでも、グローバリゼーションの恩恵(光)の面だけではなく、市場経済の一元化による貧富の格差拡大など課題(影)の面についても触れる必要があるでしょう。
 小学校段階では、食べ物や音楽、旅行、インターネットなど、モノや人、情報を通した世界との関わりの体験などを通して、私たちの生活が世界と深く結びついているという相互依存・関係性の認識を育てていくことが大切です。その際、このような関係は、あたかもブラックボックスのように、見えなくなっていることが多いので、身の回りのものを、誰がつくり、誰が売り、どのような経路で自分たちのもとに届いてくるのかを探っていくという「見えない関係を見る」視点を育てていく必要があると思います。
 中・高校段階では、グローバルなネットワークや相互依存によって豊かさも得たが、不平等な自由競争による地域格差も生じていること、一元化や標準化のパワーのもとで、地域の多様性が消失し、文化的な摩擦も生じていることといった世界における不平等な構造や関係性のあり方、グローバリゼーションの光と影への認識が必要です。そうしたなかで、日本の平均が必ずしも世界の平均ではないことに気づいていけるのではないでしょうか。

 3.地球的課題の学習
 地球的課題の学習では、人権、環境、開発、平和といった人類が共有すべき地球的課題を取り上げていきます。小学校段階では、貧困や児童労働、初等教育、保険衛生など子どもの権利にかかわること、熱帯林破壊や砂漠化、地球温暖化など地球環境問題といった事例をとおして、「宇宙船地球号」の乗組員としての意識化などを図っていく必要があります。
 中・高校段階では、人権、環境、開発、平和といった人類が共有すべき地球的課題を取り上げ、問題事象の原因や問題の解決をもたらす行為者への意識化が必要だと考えます。行為者とは、国連、ODA、企業、 NGO・NPOなど多くの存在です。そうしたなかで、地球的課題の学習が、個人には手に負えない「遠くて大きな、複雑で重い課題」の学習から、地球社会の一員として未来を共有する責任ある市民としての意思決定や選択、提案を含む学習へと、転換が図られるのではないでしょうか。このことは、社会科教育的に言えば、社会参加の学習であり、市民性(global citizenship)育成の学習とも深く関連します。

 4.未来への選択の学習
 未来への選択の学習は、今まで説明してきた3つの領域の学習と比較して、4つめの独立した学習領域というよりは、むしろ3つの学習領域と関連してあるものです。しかし、3つの領域に包含しなかった理由は、地球的な相互依存関係の深まりや地球的な課題に直面する中で、自らにとって望ましい未来を選び取るという考え方がますます重要になっていると考えるからです。グローバル時代にふさわしい歴史意識や持続可能な地域やくらしの意識、社会形成力の育成といった、より選択的で、身近な未来の意識化を図る必要があると考えたからです。
 小学校段階では、地域やくらしのグローバル化のなかで、まちづくりやコミュニティづくりを視野に入れた「未来に向けたくらし創造」、責任ある市民としての社会参加の学習などが取り上げられるべきでしょう。生涯学習や開かれた学校の意義を生かして、自治体の国際交流協会、博物館など地域の人材活用、市民活動団体との連携も求められます。
 中・高校段階では、地球的な課題意識やグローバルな視野から、ボランティアなど社会参加や体験活動を通した主体的、実践的な取り組みも必要です。望ましい未来の主体的選択(ユニセフ)という言葉が示すように、地球市民社会を形成していく資質が求められるでしょう。

7.国際理解教育の学習方法ー内容と方法の統一

 では、国際理解教育の学習方法とはどんなものでしょうか。先に掲げた国際理解教育の目標である、「コミュニケーション能力やメデイア・リテラシー、問題解決能力」(技能、目標)、「人間としての尊厳、寛容・共感、参加・協力」(態度目標)はどのようにして身に付けていくのでしょうか。それは、知識・理解の内容とどう関連するのでしょうか。
 私は、この課題を、「活動をとおして学ぶ」「為すことによって学ぶ」といった経験主義的な学習論から考えていけばよいと思っています。自ら問いをたて、問題に気づき、問題の背景となる仕組みや構造を理解し、問題の解決への行動を選択していく問題解決的な学習や、学習者のリアリティや学びのデザインを組み込んだ参加型学習が、国際理解教育の学習内容と方法を統一的に保証すると考えるのです。
 なお、国際理解教育の学習領域と内容の系統性、学習方法については、アメリカ合衆国のグローバル教育に関する教授書を分析した、以下の論考があるので、より詳しく知りたい場合は参照してください。

 ・「グローバル教育の教育内容開発に関する一考察?教授書Global Issues の場合?」社会系教科教育学会『社会系教科教育学研究』第14号、2002年、1-8頁
 ・「グローバル教育のカリキュラムに関する一考察?W.M.Kniepのカリキュラム開発論と教授書Global Issues の場合?」日本グローバル教育学会『グローバル教育』第5号、2003年、38-51頁
 ・「国際理解教育における平和学習のあり方?Global Issues in the Middle School 『ノーベル平和賞』の授業事例を中心に?」日本国際理解教育学会『国際理解教育』第9号、2003年、62-75頁

8.学校における国際理解教育のすすめ方(留意点)

 すでに部分的には述べてきましたが、ここで、学校における国際理解教育のすすめ方の留意点をまとめておきます

 1.小学校
 小学校では、現在、「国際理解の一環としての英語活動」が広く導入され、実践されています。そこでは、コミュニケーションや交流中心の活動がなされていますが、英語を第一言語とするネイティブの外国人講師であっても、アメリカやカナダ、オーストラリアの多民族国家、多文化社会の現状を反映すべく、多様な民族的・文化的背景をもった講師を教室に呼ぶべきです。
 あるいは、地域の外国人のリソースを活用して、英語を第一言語としない外国人講師(そこには開発途上地域やアジアから来た講師も多い)も、広い意味での外国語活動として取り上げていくべきです。そうして、文化的多様性やコミュニケーションの楽しさへの興味・関心を持たせていくことが、国際理解の一環としての外国語活動になっていくと考えます。
 国際協力への取り組みを学習する場合も、「同情、奉仕、贈与、寄付」よりも、同時代に生きる地球の子どもたち視点や目線から、贈与や寄付に終わらない調べや追究へと学習のねらいを明確にしておくことが大切であると思います。

 2.中学校
 中学校では、たとえば、「総合的な学習の時間」において、社会科や国語科、家庭科、音楽や美術の教科との関連をはかりながら、国際理解教育の教科横断的な内容を踏まえた学習課題を設定し、異文化や多文化の理解、それらとの共生の態度、相互依存関係の追究、地球的な課題の理解と解決の探究、未来志向の発想などを身に付けさせたいものです。
 また、内容と方法の統一の観点から、問題解決的な学習や参加型学習を活用して、自ら学び、考えて、解決に向けた行動を探るといった学習のプロセスを明確にしていきたい。その際、地球的な課題を取りあげる場合などでは、地域の人材とのネットワークを生かし、ユネスコやユニセフ、地域のNGO、JICAの出張講座などと連携した学校や学年の学習活動に発展しても面白いでしょう。

 3.高等学校
 高校では、「総合的な学習の時間」が、教科横断的な課題探究よりも、修学旅行などの行事や進路学習に偏っているといわれています。ある意味で、「総合」の形骸化ともいえるのですが、普通科でも、単位制総合高校などの「課題研究」に倣って、他教科との関連学習や生徒の個人研究をすすめていった方がいいと考えています。
 問いをたて課題を発見し、自ら調査やインタビューをし、追究していった研究や、イベントなどプロジェクトをとおした学習がふりかえりや考察の深まりといった学習プロセスを伴うならば、優れた成果をあげていくのではないでしょうか。
 また、「総合」ではなく、地歴・公民科、英語科、国語科、理科、家庭科など国際理解内容を多く含む教科学習においても、国際理解教育は可能です。

9.授業実践事例収集の枠組み

 日本国際理解教育学会では、科学研究費による研究課題「グローバル時代に対応した国際理解教育のカリキュラム開発に関する理論的・実践的研究」(研究代表;米田伸次、16年度より多田孝志、平成15年-平成17年度)において、以上述べてきたような国際理解教育の骨格をもとに、授業実践事例を、以下のような枠組みで収集し、そのなかから授業実践のためのモデル授業案・カリキュラム案を提案しようとしています。

 1.単元名(活動名)、カリキュラム開発の視点
 2.対象:学校 学年 人数、授業者
 3.教科領域との関連性
 4.実施時期
 5.総時数
 6.単元(活動)目標(体験目標・知識目標・技能目標・態度目標)
 7.キーワード(単元を象徴するキーワード5つ以内、データベース検索に活用)
 8.単元について(教材観・単元設定の理由、単元が国際理解教育としてどんな意味をもつのか、記入者が国際理解教育をどのようにとらえて展開計画の中に反映させているかなど国際理解教育の視点)
 9.連携(関係性)について(TT、ゲストティーチャーなど単元実施や活動に関わった人や機関など、連携に関する情報)
 10. 展開計画・展開記録、次/時、主な学習活動と子ども(学習者)の意識、留意点。
 11. 評価計画:各目標に対する評価項目、評価規準、評価方法
 12. 苦労した点(学習活動が展開する中での苦労や、そこで見えてきた問題点)
 13. 改善するとしたら
 14. 授業づくりのための参考資料(単元を構想、実施する上での教師や学習者のための著作物、参考資料、視聴覚教材、ウェブサイト、データーリソースなど)
 15. 学びの軌跡(感想文、作品、ノートなど、学習者の変容がわかるように記入。できる限り学習者本人の言葉や作品で示すと具体性、説得性の高いものになる)
 16. 備考(授業者による自由記述)

 この枠組みには、授業があらかじめ計画されたカリキュラムであると同時に、具体的に実践されるなかでカリキュラムが生成されるという2つのカリキュラム観にもとづいた項目を設けたところにあります。
 具体的には、前者については、授業や単元が、国際理解教育のカリキュラムのどこに位置付くかを示すことができるように、カリキュラム開発や単元設定の視点の欄(項目1、項目8)、目標欄(項目6)を設けました。後者については、「生きもの」としての授業、学習者の学びの履歴、授業づくりのプロセス、改善点などを示すための欄(項目、9、12-15)を設けています。
 (記入のフォームについては日本国際理解教育学会の公式サイトをご覧ください。 http://www2.ocn.ne.jp/~kokusaig/

10.国際理解教育の歴史・背景

 補足として、日本の国際理解教育の歴史を年表として掲げておきます。日本の国際理解教育は、ユネスコ共同学校とともに始まりましたが、その後、1974年のユネスコ「国際教育」勧告から距離を置き、公式的には、海外子女教育、帰国子女教育に特化していき、異文化理解中心の国際理解教育が考えられていました。
 その後、日本経済の急激な国際化に伴って、1980年代後半から国際的な場で活躍し、競争できる人材の育成や世界の中の日本人の育成という観点から国際理解教育が、「国際化教育」として位置づけられ、現在に至っていることは最初に述べた通りです。
 また、現在、学習論や授業論として、「総合的な学習の時間」の導入とともに教科横断的な統合的学習の枠組みの中で、国際理解を取り上げることができるようになりましたが、民間の教育活動として帝塚山学院大学国際理解研究所や日本国際理解教育学会の活動が、地道に継続され、学校内外での授業実践への指針となってきたことも忘れてはならないでしょう。
 今後の新たな方向性としては、2005年から始まった「国連・持続可能な開発のための教育10年」(ESD)がユネス所管となって、文部科学省が、開発教育や環境教育とならんで、国際教育をESDの受け皿として位置づけようとしていることが注目されます。

 1946 ユネスコ成立(国連:教育科学文化機関)
 1951 日本、ユネスコに加盟(国連に加盟は1956)
 1953 ユネスコ協同学校計画に参加
 1973 全国海外子女教育研究協議会(事務局:東京学芸大学)
 1974 ユネスコ「国際教育」勧告(国際理解、国際協力及び国際平和のための教育並びに人権及び基本的自由について教育に関する勧告)
 1978 国際基督教大学高校(帰国子女受け入れ専門高校、80年同志社国際高校)設立
 1981 異文化間教育学会
 1982 『国際理解教育の手引き』(日本ユネスコ国内委員会)
 1989 新学習指導要領(臨教審答申「新しい国際化」)を踏まえ帰国生・国内生・外国人生徒共習校(東京都立国際高校設立、91年千里国際学園)
 1990 日本国際教育学会
 1991 日本国際理解教育学会
 1993 日本グローバル教育研究会(1997年学会に)
 1994 ユネスコ第44回国際教育会議(「74年勧告」20周年) 冷戦後の民族紛争激化
 1996 ユネスコ『学習:秘められた宝』(1995年阪神淡路大震災、ボランティア活動)
 1998 新学習指導要領告示(「総合的な学習の時間」国際理解・外国語会話や環境、コミュニケーション能力の重視、外国語必修)
 2002 「総合的な学習の時間」が小中学校で実施(高校は2003年
 2005 国連:持続可能な開発のための教育10年(外務省:開発教育・環境省:環境教育・文部科学省:国際教育)

 *帝塚山学院大学国際理解教育研究所、国際理解教育奨励賞論文事業(1975 2004)
 *日本国際理解教育学会科研費研究「国際理解教育の理論的実践的指針の構築に関する総合的研究」(1995 1997)
 *日本国際理解教育学会科研費研究「グローバル時代に対応した国際理解教育のカリキュラム開発に関する理論的・実践的研究」(2003 2005)
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