藤原孝章研究室

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2009.03.24
時事問題学習論-社会科教育のニューウエーブ
藤原孝章編『時事問題学習の理論と実践
- 国際理解・シティズンシップを育む社会科教育 - 』

福村出版、2009年1月

 本書は、日本学術振興会科学研究費補助金(基盤研究(C)、2004-2006)年)の報告書に(本ウエブサイト「科研費(2006)時事問題学習」参照)、新たに第5章と第10章を書き加え、「時事問題学習の理論を実践」として、新たな社会科教育を提案するものである。副題に国際理解・シティズンシップを育むとしたのはそんな願いもあってのことである。
 以下に、目次と「まえがき」を示しているので、ぜひ手にとってみていただきたい。
(付記:出版に際しては同志社女子大学教育研究センターの出版奨励金を活用させていただいた)

目次

まえがき
第1章 時事問題学習の現代的意義と単元開発の方略
第2章 「説明・解釈」を中心とする時事問題学習の意義と課題
- 高校・国際コース特別科目「国際理解」(Global Studies)をふりかえって:単元「社会主義の変容とその行方」「ソ連邦の崩壊と東アジア」の場合-
第3章 メディア・リテラシーと開発教育の観点を取り入れたイギリスの時事問題学習
- 開発教育プロジェクト「グローバル・エクスプレス」を事例として -
第4章 時事問題学習の授業づくり
-「グローバル・エクスプレス(Global Express)」の活動事例を手がかりに -
第5章 社会的実践能力の育成をめざした「時事問題」単元の授業実践
- 意思決定と課題解決への参加をめざして:単元「戦争と平和」の場合 ?
第6章 協同学習による合意形成をめざす時事問題学習
- 単元「問題を克服し,さらに平和な日韓関係をめざして」の場合 -
第7章 社会参加を中心とする時事問題学習
- 単元「国際社会の諸課題:私たちの難民問題」の場合 -
第8章 社会参加と社会体験(国際協力活動)の伝え方
- 桑山紀彦の「地球のステージ」を題材にして -
第9章 社会参加学習 - 構成的学びへの挑戦
- JICAピース・トーク・マラソンのポスターを活用したワークショップ:「積極的平和」に関する学習の場合 -
第10章 世紀の転換期に遭遇して-世界の見方・考え方
あとがき
(分担執筆:第4章 石川一喜、第5章 高野剛彦 第6章 松井克行、他は藤原孝章)

「まえがき」より

 本書は時事問題学習に関する授業研究書である。戦後初期の社会科にあった科目としての「時事問題」に関する分析書はあるが、「社会科・論争問題としての時事問題」をとりあげ、社会科の学習原理を明確にし、その単元化・教材化の方略・視点について、すなわち時事問題学習の理論と実践を真正面から取り上げたのは、本書が初めてである。
 本書は、10章から成っている。
 第1章は、時事問題学習に関する授業実践の理論的枠組みを示すものである。
 初期社会科やNIE、シティズンシップ教育など先行研究の検討を踏まえて、時事問題学習の単元開発を、民主主義社会の形成をめざす社会科の学習原理から枠付けしようとした。すなわち、@社会科の学習原理である科学的認識・説明に対応する「説明・解釈」型時事問題学習、A社会の価値的認識・判断に対応する「判断・批判」型時事問題学習、B合理的意思決定の学習原理に対応する「合意形成」型時事問題学習、C社会参加の学習原理に対応する「社会参加」型時事問題学習の4つである。
 第2章以下は、これらの授業実践の理論的枠組みに基づいた実践事例を取り上げるものである。
 第2章は、社会科の学習原理である科学的認識・説明に対応する「説明・解釈」型時事問題学習の意義と課題について、「ソ連崩壊」を題材とした編者の高校教員時代の授業実践をふりかえり、分析、考察したものである。
 第3章は、社会の価値的認識・判断に対応する「判断・批判」型時事問題学習の意義と課題について、イギリスの時事問題学習教材「グローバル・エクスプレス(Global Express)」を事例として、分析、考察したものである。事例分析の題材としては「イラク戦争」を扱った。
 第4章は、第3章で取り上げた「グローバル・エクスプレス」について、授業づくりの観点から考察したものである。附属資料にはグローバル・エクスプレスの一覧を提示し、アクティビティを中心に分析を加えた。
 第5章は、合理的意思決定の学習原理に対応する「合意形成」型時事問題学習の単元開発について、高校「時事問題」科目での「イラク戦争」を題材にした授業実践をとりあげ、分析・考察を試みたものである。
 第6章は、第5章とおなじく高校「時事問題」科目における「合意形成」型時事問題学習の単元開発の事例である。協同学習による参加型学習を方法化し、日韓関係を題材に取り上げ、問題解決の探究した授業実践である。
 第7章は、社会参加の学習原理に対応する「社会参加」型時事問題学習の授業単元構想について、難民問題を題材としてとりあげ、シミュレーション学習と学校の特別活動とを連結した社会科授業を提案したものである。
 第8章は、社会参加学習と連関した特別活動として最近、各学校での公演の実績がある「地球のステージ」について、NPO(桑山紀彦代表)の国際協力活動(社会参加活動)の意義を考察し、社会参加と社会体験の伝え方の視点から、教室と外部者のあり方について論じたものである。
 第9章は、編者が、「積極的平和」に関する学習についてJICAピース・トーク・マラソンのポスターを活用した参加型学習のワークショップとそこから得られる構成的な学びについて考察したものである。
 第10章は、本書が取り上げたトピック、ソ連崩壊からイラク戦争までの時代、すなわち20世紀末と21世紀初頭という世紀の転換期の20年間が提起した課題について、自由と平等、戦争と国家、個人と社会、国家、世界の見方・考え方などをキーワードに編者なりに読み解いてみたものである。

 各章の授業原理と題材・トピックに関して分かりやすく表にすると以下のようになる。

授業原理 題材・トピック
第1章 単元開発のための理論的枠組み (授業方略に関するメタ的視点)
第2章 説明・解釈型、実践事例 社会主義の変容、ソ連崩壊
第3章 判断・批判型、実践事例 メディア、世界の貧困、イラク戦争など
第4章
第5章 合意型成型、実践事例 イラク戦争
第6章 日韓関係
第7章 社会参加型、実践事例 難民問題
第8章 社会参加活動(外部から教室へ) 国際協力、ボランティア
第9章 参加型学習(教室から外部へ) 積極的平和、構造としての平和
第10章 世界の見方・考え方、認識フレーム (題材に関わるメタ的視点)

 本書の読み方は3つほどあると考えている。
 1つは、本書の特色は、時事問題に関する学び方や教え方(方略)を示している点である。
 時事問題は、メディアが取り上げる「旬」の話題であり、また論争的であることによって興味を引きやすい。情緒的には単純だが、その様相や因果関係も複雑である。だから、その説明は、専門家の解説やテレビ・新聞のニュース報道に依存するのが通常である。たしかに、時事的な教養は身に付くかも知れない。しかし、それだけで、社会科の学習といえるのだろうか。生徒が、自分以外の他者と意見を交換し、知識やメディアを検証し、論争的な課題に対する解決策を探究したりすることは不可能なのだろうか。
 本書は、社会科における4つの学習原理を「入れ子型」に単元化することで、このような授業創造の課題に応えようとしている。もちろん、「入れ子型」にこだわる必要はない。個々の学習原理を中心とした授業創造も可能であり、そのようなものとして読んでもらってよい。
 2つめには、本書は、社会系教科における「市民的資質育成のあり方」として読むことができる。
 時事問題学習は、社会と関わる教科として、民主主義の社会形成に求められる市民的資質の育成をねらいにしてこそ意義がある。「時事問題」という科目が戦後初期の社会科に登場したときも、昨今、現代的・論争的課題を取り上げる注目されているイギリスの新教科「シティズンシップ」も、時代の状況こそ違え、敗戦後の民主化(日本)や民主主義にもとづく社会の再構築(イギリス)と深く関わるものである。すなわち、本書は、社会と関わり、社会を形成する市民的資質を育成する授業書として読んでほしいのである。
 3つめは、時事問題に関する「授業実践の記録」として読んでもらいたい。
 単なる時事教養ではなく、論争的な「旬」の話題を授業化する場合、教師にはそれなりの力量と勇気がいる。とりわけ、イラク戦争や日韓関係など政治問題化している話題は、留意することも多い。それは、いわゆる「偏向教育」でもなく、教師の熱い想いのみを述べて生徒は冷めているという「空回り」する授業でもない。
 生徒自身が考え、批判し、議論し、解決策をだしあうような「討議型民主主義」にもとづく授業を創ることが、教師の研修力と授業構想力に依存するからである。長い教員生活を顧みて、生徒はどんな話題にしろ、真剣な議論をした授業は絶対に忘れない、という確信に似た授業観が編者自身にはある。その意味で、時事問題は、政治的リテラシーと議論という民主主義の基本を満たす授業になりうるものであり、本書で紹介した授業実践はそのような力量ある教員の手になるものである。
 本書は、編者の他に、石川一喜(第4章)、高野剛彦(第5章)、松井克行(第6章)の3人に執筆をお願いした。石川一喜氏は、大学や(特定非営利活動法人)開発教育協会において、開発教育の教材づくりやファシリテーター養成に関わっている実践者であり、高野剛彦・松井克行の両氏は、高校で「時事問題」科目を担当され、研究も実践もできる社会系教科の教員である。
 時事問題学習の理論と実践に関して、社会科教育の研究者、実践者のいずれにも、本書が、なにがしかのヒントになれば、幸いである。
(編者)